たんたんと..日常

地味に密かに日常を写真で綴るブログです。

時空

時々、現代のわさわさした時間から逃れたくて、古い物の中に身を置きたくなる時が

ある。当時の流れた時間は止まったようで実は今でもゆっくりゆっくりと時空は進ん

でいることを感じとれる。..なんて思う私も歳をとったということか。

先日、ヴォーリズ建築が多く残る近江八幡市へ。今回は旧伊庭家住宅、市街地から

少し離れた安土町に静かに佇んでいる。

 

近江八幡市の数あるヴォーリズ建築の中で、内部を見学させていただける(拝観料は

無料だがボランティア団体オレガノが運営しており運営協力金を納める)ところは貴

重であり、ありがたいこと。

旧伊庭家住宅はヴォーリズの初期作品で竣工は1913年。築100年をこえる建築。洋風

の主体部と和風の玄関部で構成されており、主体部の外観は当時の英国風な趣き。

屋根は天然石スレート葺きで西妻に煙突が備えてある。

 

 

 

玄関から和室へ、そして中央の階段部分から洋室への空間に変化している。

 

ヴォーリズらしさが感じられる南側のサンルーム。

おそらく当時のキッチンだと思われる。戦前の日本の台所と言えば寒く暗い北側に設

けられていたが、この住居が建てられた大正当時にこれだけ陽が差し込み明るいキッ

チンはかなり珍しかったに違いない。

 

そのサンルームから繋がるダイニング。はめ込まれた窓のデザインも素敵すぎる。

 

ダイニングの片隅に設けられた暖炉は泰山タイルが貼り込まれている。

 

 

 

ヴォーリズと言えば階段の佇まいとシルエットが美しい。そのまま今度は二階へ。

この建築の発注者は住友財閥の基礎を築いたともいわれた住友家第二代総理事に

も就任した伊庭貞剛。明治期の大実業家だったようだ。しかし数々の業績を残すも

「事業の進歩発展に最も害するものは、青年の過失ではなく、老人の跋扈(ばっこ)

である」という信念から57歳で引退、石山(滋賀県大津市)の別荘で余生を送ったと

いう。ちなみにこの別荘も年に1回?特別公開されている。

その貞剛の四男伊庭慎吉がこの屋敷に住んでいた。学生時代、絵画の勉強にフランス

へ留学、帰国後は商業高校の美術教師として勤務。後に沙沙貴神社の神主を経て安土

村村長を歴任していたという経歴の持ち主だったようだ。

 

 

 

 

洋風の部屋に蘇鉄が描かれた杉板の戸襖。

おそらく十字架をモチーフにした窓枠。

京都アニメーション制作の「中二病でも恋がしたい」の舞台として旧伊庭家住宅が

登場していることで聖地巡礼で訪れる人もおられるとのこと。